「おい、雪弥君。今すぐ僕の車を置きたまえ」

 宮橋が言いながら、ゴーホーム、と犬にやるような仕草で合図を出した。

 彼の表情は、かなりブチ切れていた。その背中には真っ黒い怒気を背負っており、二人の青年が今にも失神しそうな顔で震えている。

 ほぼスポーツカーを持ち上げかけていた雪弥は、遅れて宮橋へ目を向けて止まる。

「君のせいで、僕の車に傷が入った。君のバカみたいな握力で、指を引っ掛けているところも凹んでる」
「あ」
「いいから、僕の車を今すぐそこへ戻せ。投げるのなら、こいつらのバイクにしろ」
「「ひでぇっ」」

 宮橋がビシッと指を向けて言い放つ。本人の前で言うのかよと、青年たちが短い悲鳴を上げていた。

 雪弥は丁寧にスポーツカーを戻した。確認したみると、言われた通り持ち上げた箇所などが凹んでしまっていた。

「あちゃー……」

 おそるおそる目を向けてみれば、そこには鬼のような宮橋の姿があった。