「そんな清々しく言い切った刑事は初めてです」
「だが、軽い怪我くらいはいいが、腕なんかは折るなよ」
「そんなへましませんよ。加減します」

 雪弥は淡々と答え、黒い瞳の奥をゆらりと青く光らせた次の瞬間には、動き出していた。

 バイクとの距離感を捉えたまま、素早く進行方向先へと飛び出す。

 唐突に、ブラックスーツの若者が前に立って驚いたらしい。隣の車線を走る車が、びくっと車体をぶれさせ、バイクの青年達が何やら叫んだ直後に急ブレーキを掛ける。

 速度が減速した。これなら壊さずに済む。

 雪弥は冷静に構えると、途端にバイクへと向かって走り出した。目撃した車の運転手たちが「うそでしょー!?」と車内で叫ぶ声は、届いていない。

「んぎゃあああああ一体なんだ!?」
「ばっ、バカくるな!」

 二人の青年が騒ぐ。

 その一瞬後、雪弥は彼らの目と鼻の先に迫っていた。バイクの頭部分を、ライトの箇所をややメキリと言わせつつ片手で掴むと、進行方向へ向けて横倒しに転ばせた。