一体、どちらに対して言ったのか。

 それとも、またしてもただの独り言なのか。

 低くなった小さな声が、流れていく車の走行音から聞こえた。落ちてきた前髪を、うざったそうに指先で少し寄せた宮橋が、指の隙間からじっとりと道路を見ている。

 雪弥は、彼と同じ方向へ目を向けた。

 そこには、大きな道路と流れて行く車があるばかりだ。

 それなのに、雪弥はまるで、宮橋には〝全く別の風景〟でも見えているみたいだという印象をちらりと抱いた。

「ああ、そろそろだな」

 また唐突に、宮橋が声を上げる。

「そろそろって、何がですか?」
「僕らが待っている〝バイク〟と〝車〟さ。今、同じデカいトラックが三台通っただろう。あのあと少しくらいに〝バイクが走ってくる光景〟だった」

 見た、という表現は過去を言い表すものだ。

 雪弥は、そこについて少し考えたものの、途端に「まぁいいか」と一兵として考えるのを放棄して確認する。