「ちょっとばかし君の視界を〝経験〟してみただけだよ。自覚がないなら、いいさ。君自身になんら負荷はないだろうし、そこは僕とは違う」

 独り言のように言った宮橋が、小さく肩を竦めてみせる。ほんの少し笑った目元が、くしゃりと細められて道路を眺め続けていた。

 雪弥は、ちょっと首を傾げた。んー、と深くは考えないまま直感的に言う。

「宮橋さんは、見続けるのが嫌なんですか?」

 ――また、やや、間があった。

「君は、呑気なのか鋭いのか、分からない子だね。知ってか知らずか、どっちともつかない質問をしてくるんだから」

 こりゃ参ったねと呟いて、宮橋が西洋人のような栗色の髪をかき上げる。日差しの下に晒されたそのブラウンの目は、やっぱり雪弥にはガラス玉みたいに見えた。

「色々と見えすぎてしまってね。意識して切り替えないといけないのに、たまに忘れる――青い葉を茂らせた大きな木と、とくに怨念を鳴く顔の実が、とてもとても煩い」