『……ちぇっ、へたな嘘つきやがって』

 ややあって、そう電話の向こうで三鬼が言うのが聞こえた。

『何があったのかは知らねぇが、怪我がなけりゃそれでいい――怪我はしてねぇんだろうな? お前、朝こっちにこなかったろ』
「言ってくれるね。まるで、怪我をしていたら僕が出社しない、みたいな言い方じゃないか」
『お前はいつも、そうだろうが』

 宮橋が不敵に笑って言えば、向こうからそう返ってくる。雪弥は彼の耳に携帯電をあてながら、こめかみに青筋を立てた中年刑事の三鬼を思い浮かべていた。

『なら顔ぐらい出せるよな? 緊急事態発生だ。近くにいるやつら全員、強盗の逃走車を止めろと指示が出てる』
「僕は近くないなー」
『おい俺の言葉を遮る勢いで即答すんなよ! 嘘ぶっこくな、テメェの事だから優雅に自宅マンションで過ごしてたんだろッ』
「それこそ言いがかりだ」

 宮橋が、ふんっと鼻息を吐く。

 普段からの行動がたたって、そう三鬼に想像させているのだろう。なんか、ちょっと哀れな人だな……。

 と、そのガラス玉みたいな目が、不意に雪弥を見た。