『かけ直しても電源切られてるし、おかげでこっちは、気になって気になって仕事に全っ然集中できなかっただろうが!』
「ははは、忘れてたな―」

 宮橋が棒読みで言った。呆れ返った笑みには、しつけぇ、と出ていた。

 でも確かに、あそこで電話を切られたら気になるだろう。その後は帰宅しただけなのに、宮橋はどうやら朝まで電話の電源を切っていたようだ。

 ――緊急事態の連絡なんてこない。

 まるでそう分かって〝事前に察知したうえで携帯電話を不要にしていた〟みたいだなと、雪弥は不思議なことを思ったりする。

『んで? なんかあったのか? 昨夜、お前『戦闘中だ』って言ってたろ』

 耳を澄ませて黙っていると、三鬼のそんな声が電話の向こうからした。

 雪弥は一瞬、宮橋が間を置くのを見た。その形のいい切れ長の明るいブラウン目が、彼の視線の先で、ガラス玉みたいな印象を強める。

「――何も」

 そっけない一言。

 ああ、それは、〝嘘〟。

 普段はよく分からないことも、どうせ理解できない、理解しなくていい、と好き勝手喋ってくる。それなのに宮橋が、ここにきてそれを言葉に出さないのが――。

 だからこそ、雪弥の目には〝奇異〟に見えた。