その時、宮橋のスーツの胸元から、また例の、個性的で愉快そうな調子のメロディーが流れ出した。

 雪弥は、そちらへきょとんとした目を向ける。それに対して宮橋は、露骨に綺麗な顔を顰めて自分の胸ポケットに一度目を落とした。

「なんだ? このタイミングで電話をしてくる馬鹿は、一人しか浮かばないが――雪弥君、すまないが取って僕の耳にあててくれるか。今、ちょっと手が離せん」
「あ。はい、分かりました」

 雪弥は、宮橋が前の車を次々に追い越すのを見て、それのせいなのだはと思いつつも言われた通りにした。

 ――直後、携帯電話から大きな声がもれた。

『てんめぇぇえええええ! 昨日の夜、一方的に気になるところで電話を切ってんじゃねぇよ!』

 その声は、彼の同期の刑事である三鬼だった。

 そういえば昨夜、ちょうど乱れ撃ち状態の中で着信があった。そちらの方がインパクトが強くて、途中電話を取った一件を今になって二人は思い出した。