「『これは自分案件だぜ!』と思ったら、ばんばん主張して、他の奴らに取られる前に、その席を勝ち取っちまえばいいんすよ。そうしたら、あとで『あいつに任せなきゃよかった』って、心配しなくていいし。刑事としても昇進早くなると思う!」

 心配、と彼が口にした瞬間、雪弥は知らずドキリとしてしまった。けれど、続いた言葉に拍子抜けする。

 そういえば、彼は僕を〝新米刑事〟だと思っているんだった……。

「さて。僕らも仕事に戻ろう」

 そんな雪弥と風間から、宮橋が地図へと目を戻した。腕時計のライトをあてて、指先で地図上の線をなぞる。

「『青桜の母鬼』は、僕らが昨日行った山の母親にまつわる【物語】だ。とすると、ますます今回の〝縁〟を利用された可能性があるな」
「つまり彼女(ナナミ)は、被害者でもあると?」

 雪弥は、風間からそろりと離れるように宮橋の方へ歩み寄った。なんらかの事件がマジで発生しているらしいと察した風間が、「ひぇ」とか細い声をもらして大人しくなる。

「そうさ。たまたま『子の骨』と関わってしまった事に目を付けられて、何者かが『怨鬼の衣』を与えて去れ出したんだよ」

 ややピリピリとした口調で続けた彼が、とある箇所で、とんっと指先を叩いてとめた。

「この地区で、方位、条件等が該当する場所は、ここか」
「それが、鬼化が進んでいる彼女が向かう先なんですか?」
「まだ姿は『視えない』けどね、恐らくは確実にここへ〝向かっている〟はずだ。そんなに待たずにして、彼女は必ずここに現われるだろう」

 宮橋はそう言うと、携帯地図をスーツの内側のポケットにしまった。そして雪弥は、ほどなくして彼と共に、風間に見送られてその店を後にした。