「やっぱりそうくるかぁ。宮橋先輩が言うんだから、もう使用されちゃっているのは、確かなんだろうしなぁ」

 はあぁぁ、と風間が深い溜息をもらし、がっくりと肩を落とした。

「分かってはいるんすよ。所詮、俺は一般人だし。本物にかかってこられたら、泣き寝入りするしかないって」
「人はそれぞれ、やれるべき役割が違っている。それ以上を求めようとすれば、器から水が溢れるのと同じさ。踏み越えてはならないラインというのはあって、だからこそ〝その人にしかできない事だってある〟」
「はいはい、何度も聞きましたし、んなのは大学時代に身にしみましたよ。俺は、そんな橋渡りはごめんです」

 風間が、再び深い深い溜息をこぼした。引き際と諦め際は、だからきちんと分かっているからこそ、ここもあっさりと身を引くのだ、と。

 ――『やれるべき役割』。『その人にしか、できない事』

 どうしてか宮橋の言葉が、雪弥の中に引っ掛かった。聞きながら脳裏を過ぎっていったのは、なぜか外から見た蒼緋蔵邸の光景、そして兄の姿だった。