「戻って来ないよ、既に『使われた』」

 地図に目を走らせている宮橋が、ぴしゃりと告げる。その直後に風間が「うそぉぉぉ」と、今度は両手を床について崩れ落ちた。

 雪弥は、なんだか可哀そうだなと、彼を見つめてしまっていた。

「えぐっ、うっぅっ、結界は完璧なのに、一体全体どこの鬼畜野郎が盗んだっていうんですか!?」
「僕が『視る』限り、結界に傷は入っていないよ。とすると、特別な〝素材〟でも使って、魔術で通り抜けたんだろうな」
「そんな魔法みたいな技、あります!? 魔術の警報も全く作動していないんですよ!?」
「さぁね。僕としても覚えがない――が、可能性はあるよ」

 そう口にした宮橋が、ふっと視線を移動した。そのガラス玉みたいな彼の明るいブラウンの目が、とある空の一点でとまる。

 じっと見つめた彼が、腕時計をしていない方の手を伸ばした。何かに触れるような仕草をする。

「なんです、宮橋先輩?」

 ぐすっ、と鼻をすすった風間が問う。