そこは薄暗い奥の壁際で、着物を立て掛ける物が三つ並んでいた。

 左右には、ぼんやりと浮かび上がるような美しい二色の着物が置いてあった。だが、その真ん中だけ、着物が引っかかっていない状態だった。

 この倉庫内で、空箱や空のケース、何も掛けられていない状態のものは、一つも置かれていない。

 ――そう考えると、導き出される推測は、一つ。

「着物が、一つなくなっているみたいですね」

 顎に手をやった雪弥が、思案のまま口にする。その声を耳にした途端、現実を受け入れられないでいた風間が「嘘でしょっ」と頭を抱えて膝から崩れ落ちた。

「うおおおおおお嘘だと思いたい……! よりによって霊体を具現化された方の、レア中のレアの『青桜の母鬼』の着物がないとか嘘でしょおおおおおお!? 何度見てもすっかりさっぱり消えてるんですけどっ、どうか嘘だと言ってください宮橋先輩ぃいい!」

 風間が、がーっと喋りながら唐突に泣きついた。大学時代の後輩に遠慮もせず、宮橋が腕一本で彼を持ち上げて引きはがす。