そもそも雪弥は、その価値がよく分からない。ただの人間が鬼と変じていく〝材料〟の一つというイメージも、ピンとこないでいる。

「ただの着物で、人が鬼になったりするんですかね?」

 ぽつりと疑問を口からこぼしてしまった。すると首を傾げた雪弥に、風間がきょとんとした目を向けた。

「あんた、『怨鬼の衣』を知らないのか? 鬼の着物と呼ばれているものは、いくつかあるけど〝着るだけで簡単に鬼になるわけじゃない〟ぞ?」
「え? そうなんですか? でも危険なんですよね? だから、奥に厳重にしまわれている」

 雪弥は、不思議に思ってそう尋ね返した。見つめ返す風間も、彼と似たような表情を浮かべて、しばし見つめ合っていた。

「まぁ、危ないのは確かだけど」

 ややあって、風間がようやく切り出した。

「それは〝きっかけ〟と〝影響〟を強く与えるからさ。着物に宿った想いが、鬼の物であれば尚更、人はあっさりと〝引きずられる〟」
「心理的に影響を受ける、と……?」
「なんだ、べっぴんの兄さんは、こっちの世界に関しても入ったばかりの新人さんなのか?」

 ますます余計に分からなくなってきた雪弥を見て、風間は、なら教えてあげないとなと先輩風に続ける。