「いきなり、なんすか宮橋先輩?」
「別に。それよりもお前、僕の事をさん付けで呼ぶのか、先輩と呼ぶのか、統一したらどうだい?」
「あっ、しまった。『先輩』とは呼ばないようにしていたのに」

 風間が、うっかり、とでも言わんばかりに口を押さえる。

「大学時代からずっと付き合いがあって、先輩と呼んでしまうくらいには、親睦があったわけですよね? ならば普通なのでは」

 雪弥は不思議に思って口にした。すると風間が「いや、まぁ、そうなんだけど」とぎこちなく呟きながら、思い返すような顔をする。

「俺、大学の時、下僕でパシリだったんスよね。その名残というか」
「…………」

 二人の関係が分からなくなってきた。雪弥は、なんと応えていいのかと口をつぐんだ。

 しばし風間の後に続きながら、黙って歩いた。

 そうして辿り着いたのは、頑丈な一つの小振りな鉄の扉だった。

 その扉は、まるで取ってつけたみたいに古くて雰囲気も違っていた。そのせいで室内の様子とは、アンバランスな印象があった。