雪弥が吐息交じりに納得を伝えると、宮橋が鷹揚に頷いた。

「それが〝どの【母鬼の物語】の着物なのか〟特定出来れば、彼女(ナナミ)が、次に向かう先が分かる」

 その説明に、雪弥は「ん?」と疑問を覚えた。

「彼女が、自ら向かう先があるんですか?」

 ナナミは、夢でも見ているかのように漂っている感じではなかったのか。てっきり、昨日みたいに捜すのだろうと思っていたから、つい尋ねた。

 ふと、はじめて宮橋が、質問に対してやや間を置いた。

「【物語】というのは、行く先が決まっている完成された一つの本みたいなものだ」

 次の信号がタイミングよく青信号に変わって、そのまま減速しただけでスポーツカーを街中へと曲がらせた彼が、そこでそう口にした。

「従わせるための暗示と、鬼化を進めるための強化の魔術。そうやって無理やり外から【物語】を、捲きで進められているとしたのなら――」

 ぷつりと、言葉が途切れる。

 その続きを、宮橋は語らなかった。