「目撃はされているんだよ。ただ、出現する条件が揃うまではこの世に現われないし、事が終わってしまうと、手元に現物として残らないタイプの物なのさ」
「現物として、残らない?」
「この世のものではない着物、と語られている。それは、その着物が元々は『本物の鬼』の物だった、とされているからさ」

 この世の物ではなく、鬼が持っていた、物。

 だから、この世界から消えてしまう? 雪弥は昨日、少女ナナミの姿を何度も見失った一件を思い返した。

「人じゃなくて、物まで……そんな事、実際あったりするんですか?」
「あるよ。本物の鬼の物であるのなら、それは〝見えない領域〟の物だ。用が終われば、元のあるべき世界へ帰還するから、消えてしまうのは当然の事なのさ」

 そうざっくり宮橋が説明する。

 雪弥は、やっぱり首を捻った。改めて説明されたところで、考えても分からない。

「消えてしまうのに、実在しているんですね」
「その辺は、〝君達の知るところの〟魔術やら召喚に近いかもしれないな。実在はしていて、こちらの世界に引っ張られると誰もの目にも映る。だが起因するべき世界は、こちら側じゃないモノ」

 含むような言い方だった。けれど雪弥は、そもそも魔術やら〝召喚〟やら、だなんて言葉を特殊機関でも聞いた覚えがない。