あの時、屋敷の地下で、自分の行動を止めようとして叫び。そうして自分がするはずだったのに、最後は自ら銃の引き金をひいて事件に終止符を打った人。

 口を閉じて、じっくり思い返してしまっていた。すると宮橋が、一旦身を引くようにしてソファに背を預けた。

「まっ、別に話すも話さないも君の勝手だけどね。こうして少し暇がある、思っている事があれば口にすればいいと僕は促しただけにすぎない」

 何があったか、詳細を訊くつもりはないらしい。

 そう口調から感じた雪弥は、静かに青い目を向けて、興味もなさそうにビールを飲む宮橋の姿を目に留めた。

「思うところがあれば、今、独白でもなんでも口にしてみればいい。僕は君をよくは知らない。ゆえに詮索は出来ない。たまたま居合わせた三十代の人生の先輩だ」

 よそを見やっている宮橋の目は、やっぱりガラス玉みたいで、何を思っているのか雪弥は分からなかった。けれど口下手な人間の重い口を開かせるみたいに、話すハードルを下げてくれているのは分かった。

 これは、独り言。

 雪弥は宮橋の言葉を思って、手元の缶へと目を落とした。自分の事を話すなんてあまりなく、自分自身の個人的な事情の考えを、どうまとめればいいのかも意識した事さえない。