立派な冷蔵庫を開けてみると、中にはほとんど食料品は入っていなかった。普段あまり部屋にはいないと言っていたから、恐らくはほとんど外食で済ませているのだろう。

「入っている食べ物は、ワインに合うおつまみだけ……」

 思わず、中を覗き込んだままポツリと呟いた。

 そうしたら、キッチンカウンターの向こうのリビングから、機嫌を損ねたような美声が飛んできた。

「そういうチェックはやめたまえ。君のところの冷蔵庫内と、そんな大差ないだろうに」

 なんで見えていないのに、タイミング良く的確に指摘してこられるのか。

 雪弥は不思議に思いながら、缶ビールを一つ取り出して冷蔵庫を閉めた。キッチンから歩き出ると、こちらを見ている宮橋の姿に目を留める。

「僕のマンションの冷蔵庫は、普段空っぽですよ」

 ひとまず誤解がないように、同じではない事を伝えるべく向かいながらそう答えた。

 そうしたら何故か、宮橋が途端に顔を手に押し付けてしまった。しばし沈黙が続いて、一体なんだろうと思いながら、雪弥は足を進めつつ彼の様子を見守っていた。