「確かに僕は、今『それなりに』は苛々している。とはいえ先に言っておくが、それは君のせいではない」

 宮橋はそう告げてきたかと思うと、むっつりと頬杖をついたまま再びだんまりしてしまった。

 しばし、雪弥は彼と見つめ合っていた。

 どれくらいの時間が過ぎただろうか。待て、の集中力を切らしたかのように雪弥の澄んだブルーの目が、チラリと動いて、宮橋が興味もなさそうに持っている缶ビールへ向く。

「冷蔵庫に残ってるぞ。勝手に取って来い」

 すぐに指摘されてしまった雪弥は、ピシリと固まって、それからぎこちなく彼へと目を戻した。

 なんか、犬に『取って来い』と言っているニュアンスに聞こえた。

 多分、気のせいだろうとは思う。少女の捜索にあたっている際に、警察犬みたいな扱いをされたやりとりがあったせいで、感覚的にそんな風に感じてしまったのかもしれない。

 雪弥は少し考えると、気を取り直すように一つ頷いて尋ね返した。

「宮橋さん、僕がビールの事を考えているの、よく分かりましたね。また不思議な直感か何かですか?」
「考えたうえでの質問がソレなのかい? 君、ビールのくだりに関しては全部バレバレだったぞ」

 宮橋は、美しい顔を露骨に顰めて指摘した。ビールを持っている手で指まで向けられてしまった雪弥は、「一体どのあたりで『ビール飲みたい』がバレたんだろ……」と首を捻り、冷蔵庫へと向かった。