雪弥は『よく分からなくて』、困ったように笑い返して見せた。宮橋のガラス玉みたいな明るいブラウンの目が、笑むようにして細められるものの、それは笑いからではないとも感じた。

 そうか。作っている、みたいな。

 この人にとっては、いくつかあるうちの『仮面』のようなものなのではないか。雪弥がそう思った時、宮橋が普段の調子に戻ってこう言った。

「まぁいいさ。所詮、僕には関係のない話だ」

 組んでいた足を解いて、ビールを手に取る。

「今回の一件だが、もしかしたら都合が良いとばかりに、あの少女が使われている可能性がある」
「使われている? さっきもそんな事を口にしていましたね。利用されて鬼化が進んでいる、とか」

 思い返しても、まだ信じられない話ではあるのだけれど。

 雪弥は再び、早速ビールへと手を伸ばして思う。まさかここでビールを飲めるとは、と、冷たくて美味いそれを喉へ流し込んだ。

 向かい側で宮橋が、少し飲んだだけの缶を片手にさげ、足に肘を置いて思案げに頬杖をついて窓の方を見やった。