既に連絡先は交換してある。明日の朝、彼が普段の業務開始の時間を見計らって合流すればいいだろう。

 彼は駐車場に車を残してあるから、帰りは大丈夫だ。自分は、まずはこの汚れてしまったスーツをどうにかするのを考えてから、それからその後の事を決めよう。

「それじゃあ、僕はここで」

 雪弥は考え終わると、さらっと別れを切り出して踵を返した。

 直後、ガシリと肩を掴まれてしまった。なんだか地面に押し込むレベルの力が加えられている気がするな、と思ってそぉっと目を向ける。

「あの……、なんですか?」
「君、どうせまだ何も決めていないんだろ。僕のところに泊まっていけ。ついでにスーツもマンションのクリーニングに出せばいい」

 そう提案された雪弥は、遠慮して「いやいやいや」と両手を交えて断った。

「いいですよ、その辺で寝られる場所も捜しますから。携帯番号も登録してあるので、明日、連絡をして合流――」
「後で合流する方が面倒だ。僕は、時間を合わせたり待つのが嫌いでね」
「えぇぇ……」

 戸惑う雪弥の意見も聞かず、宮橋が勝手に歩き出す。

「とっとと僕の車を取りに行くぞ。君はひとまず、汚れたスーツの上着くらい脱いでおけ」

 宮橋はこちらも見ず、どんどん歩いていく。

 勝手に決まってしまったらしい。困惑していた雪弥だったが、離れて行く彼の姿に急かされて「待ってくださいよ」と追いかけた。そうして結局はスーツのジャケットを取って、手に抱え持つと、渋々その隣に並んだのだった。