「これに関しては責めないさ。何せソレはもう、魂も抜かれて『理』からも外されている。まさに生きている動く死体みたいなもので――僕には、どうしようもない」

 自分に言い聞かせるように口にしながら、携帯電話をスーツの胸元のポケットへと戻す。

 雪弥は「そうですか」と淡々と答えたところで、ふっと殺気を解いた。今更気付いたようにして、ぼんやりと惨状の方へ目を留める。

 それに気付いた宮橋が、顰め面で声を掛けた。

「僕がし掛けた『無音状態』の解除条件は、ここを出る事だ。さっさと行くぞ」
「あの、コレどうしたらいいのかなと」

 雪弥は、その死体を見つめた状態で小首を傾げる。

 すると、途端に宮橋が「放っておけ」と、心底どうでもいい様子で片手を振って言った。

「君はなんとも思わないだろうが、君のいる『機関』とやらが現物を欲しがったとしても、彼らが回収する前には消えてしまうだろうよ。今のところは『情報だけで十分』だろ」

 告げて歩き出す背中を見て、雪弥は「あ――なるほど」と気付いた。