「宮橋さん、何をしたんですか?」
「本来は用意もないまましちゃいけないんだけどね。ちょっと裏技を使って、この場所を外界から切り取って音を外に出さなくしただけさ」

 そんな事、本当に出来るのだろうか?

 そう雪弥が不思議に思った時、廊下にのそりと進み出てくる影があった。

 それは一見すると熊みたいにも見えるくらい、随分大きくて逞しい男だった。解かれた拘束衣からは筋肉が浮かび上がっていて、裾が切れ切れの腕はだらりと下がっている。

 様子がおかしいのは明らかだ。

 ゆらりとこちらを見た大男の目は、どうしてか眼球以外の物が押し込まれていて真っ白だった。体中に手術痕が白く浮かび上がっており、額にも生々しい線が入っている。

「…………気のせいかな」

 雪弥は、ここへきて初めて口許に緊張をチラリと滲ませた。

 嫌な予感を察したかのように、隣から宮橋が尋ね返す。

「何がだい。言ってみなよ、雪弥君」
「いえ、普通はありえない事なんですが、その……――心音を感じないんですよ」

 澄ませた耳に入ってくるのは、それとは別の脈動音だ。