自らまた『向こう側』の道へ入って、世界(ここ)からいなくなってしまったのか。はたまた何者かの介入によって、一旦ここから引き上げてしまったのか。

 それとも途中で『別の何か』と入れ替わっていたとすると、自分達は、本当に幽霊みたいなモノを追いかけていたのか?

「謎だらけだ。判断材料の少ない今、考えるべき事じゃない」

 そんな宮橋の声が聞こえて、雪弥は思考を中断した。

「そもそも、今、考えるべきはそちらじゃないだろう――ったく、面倒なくらいに色々と糸が絡み合っているもんだ、とんでもないよ、全く」

 そう口にした宮橋が、廊下の向こうを警戒したまま顔の前で指を一つ立てる。そのガラス玉みたいな明るいブラウンの目が、先程より僅かに明るみを増していた。

「無音状態」

 そう呟かれたかと思った直後、ブツリ、とチャンネルが替わるみたいに外からの音が消え去った。風がピタリとやんで、ピン、と空気が変わったのを雪弥は感じた。

 まるで巨大な密室の中に放り込まれたみたいだった。漂う湿った空気は――なんというか、外であるはずなのにやっぱり静かすぎてちょっと気持ち悪い。