少なからず推測はあった。それでいて、ピリピリし始めた空気の変化を感じながらもどんどん奥へ進んだ――そう彼は自分に確認しているのだ。

 雪弥はそう分かって、「そうですね」と、しれっと答えた。

 秀麗な眉を寄せている宮橋が、舌打ち顔で「だろうな」と相槌を打つ。

「ったく、怖さを知らないというのも恐ろしいな――それで? 君の感覚だと、ここにある異常物はいくつだ」
「一つです。だから、彼女自身なのかと思ってもいましたが」

 建物を進んでみて分かった。気配が違う。

 雪弥は、思って感じたままの事を彼へ答えた。

「だから僕、思ったんですよ。あの女の子、幽霊みたいだなって」

 この階へ来て理解した。今、いるかいないかも分からない少女から、雪弥の第一目的はとうに変わっていた。

 爪が疼く。ピリピリとした空気を前に、戦闘時と同じように五感が研ぎ澄まされていくのを感じた。

「だってこの階、別のがいるでしょう?」

 雪弥は、廊下の奥へと視線を投げた。

 その瞳孔が開いた目は、形のいい唇と同じく知らず笑みを浮かべていた。先程と違って存在感がある。幽霊や幻や、そして宮橋が言っていた保護しなければならない少女でもない。