「それはどういうものなんですか?」
「いくつかに分かれるが、今の状態だと外からの音が遮断されている感じだな。ほら、『社会の音』が聞こえないだろう」

 そう言われて、静かだなという違和感の一つに気付いた。都会の真ん中にいるのに、車の走行音が途絶えるなんて雪弥の聴覚には経験がない。

「…………本来、鬼化するはずもなかった少女。そうして、彼女は『自我がないはずなのに』ここへ来た――嫌な予感が数割増しだ」

 宮橋が低い声で、思案を口にする。

 確かに、自我がないにしては動きにどこか意図があるような気はしていた。はじめは、ふらふらと町中を彷徨っている感じだったが、じょじょにこちらへ向かわれた感じもある。

 そうしばし考えたところで、雪弥は宮橋に確認した。

「つまり、僕らは誘い込まれた、と?」
「君だって本能的に感じ取っているだろう。この場に満ちている緊張状態を」

 宮橋がジロリと視線を返して、やや強張った口許を引き上げて言う。