そこには、がらんとしたフロアが広がっていた。

 踏み入った二組分の足音が、床の上でコツコツと音を立てて鈍く響き渡る。

 どうやら複数のオフィスが入っていた階であるらしい。隔たりが一部取り除かれ、残されている柱の感じからその印象を受けた。

 しばらく進むと、当階で共有使用されていたと思われる広い廊下に出た。ガラスが外された大きな窓枠がいくつも続き、月明かりが少し埃っぽい床を照らし出している。

 随分長い廊下だ。向こうに右手へと折れて繋がっているのが見えるが、数が多く感じる等間隔の窓穴のせいか、ぐいーっと廊下が伸びているみたいな錯覚もあった。

 そこを進んですぐ、自然とピタリと二人が足を止める。

 風が外から入り込んで、柔らかく吹き抜けて行く音が聞こえた。空気の流れを感じた後、残ったのは初夏の湿った静寂だった。

 だが、雪弥は、風があったとしても静かすぎる気がした。

「――無音状態、だ」

 ふと、そんな声が聞こえた。

 目を向けてみると、そこには険しい表情をしている宮橋がいた。