「君、暗い場所だとか、オバケが怖いだとかいうのはないだろうね?」
「オバケっているんですか?」

 何を唐突に質問しているのだろう。雪弥が本気で分からなくて首を傾げると、そのきょとんとした呑気な面を前に、宮橋が「いや、もういい」と片手を振って歩き出した。

「そういえばそうだったな、君が躊躇して足を止めるだなんて、僕とした事がバカなくらい『ありきたりで普通の反応』を考えてしまったよ」
「あっ、待ってくださいよ」

 雪弥は慌てて追いかけると、隣に並んでひょいとその横顔を見上げた。

「宮橋さん、また何か怒っていたりします?」
「これまで押し付けられてきた相棒と、君が随分違っているのを忘れていただけさ。君の目も、僕と似たように『よく見える』のもあるしな」

 むすっとしてポケットに手を突っ込んだ宮橋が、自分よりやや目線の低い雪弥をジロリと見つめ返した。

「君、ここが真っ暗だとか、どうせ思わないんだろ?」
「月明かりもありますし『随分』明るい方かと」

 古い窓も全部外されているおかげですかねぇ、と、雪弥は護衛も兼ねている彼の少し前を進むようにして、先に階分へ足を踏み込んだ。

 本気でそう思って言っているのだと分かった宮橋が、なんだか呆れたような目をその背中に向けていた。

「はぁ。君の事だから、幽霊廃墟だろうと怖くもなくずんずん進むんだろうなぁ……」

 それはそれで、ウチの係だと重宝される所……と、宮橋はちょっと複雑そうに見解を呟きながら、雪弥に続いて階段へと足を踏み入れた。