建物の一階は、開けたフロアになっていて月明かりが差し込んでいた。全体的に劣化しており、物が全て運び出されている様子からすると廃墟のようだ。

 辺りを見回すが、またしても少女の姿を見失ってしまっていた。

「……足音もしないし、匂いもない」

 雪弥は、黒いコンタクトの下を、すぅっと鈍く蒼に光らせて呟く。このようにして追跡が何度も断たれるというのも経験になく、実に妙な相手だと思う。

 つい、立ち止まって辺りをきょろきょろしていると、宮橋の靴音が近くで止まるのが聞こえた。

「ここは会社として使われていたビルの一つだな。建て替えるとは聞いた」

 彼が思い返すように言った時、おぼろな月のようなぼんやりとした『色』が視界の隅に入った。

 二人が目を向けると、まるでタイミングでも待っていたかのように、少女の横姿が一つの扉へと吸い込まれていく。

「………………エレベーターが多い時代だというのに、階段か」

 察して呟いた宮橋が、そこでチラリと雪弥を見やった。