まるで誘うみたいに、ふわふわと服や髪が揺れているみたいだ。

 雪弥は、そんな不思議な気持ちが込み上げてしまった。しばらく追走を続けたところで、先程の疑問を隣を走る宮橋に尋ねた。

「宮橋さん、さっき僕が単身で追っていった時、途中途中で完全に彼女を見失ってしまう感じがあったんですよ――どうしてですか?」
「彼女が『向こう側』を時々通っているからさ」
「うーん……」

 そう言われても、よく分からない。

 首を捻った雪弥は、短く己の考えをまとめて白状するようにこう述べた。

「僕には、宮橋さんが山で口にしていた『実体を持ってきていない』と同じに思えるんですけど」

 だってまるで幽霊みたいだ。存在感があまりにもないせいで、いつもみたいに五感での追跡がいかないでいる。

 雪弥はそんな感想を胸に、体重がないみたいに歩く少女へと目を戻した。姿を見失う事については、勝手に接触してきたかと思えば『三日後』だのなんだのと言っていた大男の気配が、目の前で唐突に断たれた時とよく似た感じがしていた。