「だってあの家ではまるで、僕の方が異分子だ」

 雪弥は皮肉気に唇を小さく引き上げると、自嘲するように目を細めてそう言った。

 囁くように述べたその言葉は、広がった静寂に溶けていった。ナンバー1が新たに吐き出した葉巻の煙が、彼の手前まで広がって天上へとゆらいで消えていく。

「事情は、だいたいのところ察してはいる」

 しばらく間を置いて、ナンバー1が葉巻をもう二回ほどやって、珈琲を口に流し込んでからそう言った。

「だが私は、家庭事情までは踏み込まんし、こっちの仕事をしながらソッチをどうするのか決めるのはお前だ。私も優秀なエージェントを失うのは、大きな痛手だからな。あの遠慮も知らんクソ若造には、そちらの依頼を無償で、しかも一番に対応すると話は付けてある」
「あ。やっぱり兄さんと面識があるんですね。昨日、特殊機関の人員を蒼緋蔵邸近くに用意していたのも、前もって個人的なやりとりがあったせいですか?」