「頭では分かっていたとしても、それが心からの願いであれば抗えない。呪うほどの怨みも憎しみも、結局のところは元の願いの強さあってのモノだからね」

 心からの……と雪弥は、どうしてか口の中で反芻してしまった。

 その時、宮橋がピクッと反応して外へ目を向けた。凝視するように少し見開かれた目が、ゆっくりと好奇心の色を強めてニヤリと笑みを浮かべる。

「雪弥君、彼女が出てきたぞ――あのビルのところだ」

 ここまで上がってきた甲斐があったな、と宮橋が腰を上げる。

 ここから見ても夜景があるばかりだ。黒コンタクトの目を蒼く光らせて、ざっと確認してみたが不思議な女の子が目に留まる事もない。

 立ち上がった雪弥は、その隣で首を捻った。ひとまず彼に最優先事項を確認する。

「地上に戻るとして、最短ルートはここから飛び降りる事なんですけど――宮橋さんを僕が抱え持って戻ってもいいんですかね? それとも、建物の中を通りますか?」
「チッ。仕方ないが、ここから飛び降りるのが手っ取り早いだろうな」