その問題点については、歩いている時もずっと考えているところもあるだろう気がしていた。余計な質問はするなとは言われていて、完全なる理解を求められているわけでもない。

 自分は、自分が出来る事をするだけだ。

 やや考えるような間を置いてから、雪弥は「ふうん」と思案気に僅かに頭を傾げる。

「そもそも『子』とか『母鬼』とか、どういう事なんですか?」
「一つの【物語】なのさ」

 宮橋は言いながら、両手を後ろに置いて姿勢を楽にした。座っているビルの縁から出している足を、少しだけ揺らす。

「あるところに美しい鬼がいて、人を愛していて子を作りたがった。けれど彼女は、従える鬼を産む事は出来ても、人を産む事は出来なかった――人との間に生まれた子は全て死んだ。憧れに憧れて、それでも諦められず、ただひたすらに狂うように人を愛して、子を宿し続けたのが『母鬼』」

 不思議で哀しげな話だ。

 いや、自分が本だとか、そういうものとは縁がないせいだろうか。