ようやく腰を下ろしたところだ。その隣で、蒼や灰が混じったような色素の薄い癖のない髪を、同じく風に煽られている雪弥がチラリと目を向ける。

「えっと…………なんかその、すみません?」

 自分のせいで逃げられたようなものだ、というのを思い出して謝った。あの後から今に至るまで、ずっと歩き続けてしまっているのを考えて、ぎこちなく目をそらす。

「この遅い時間まで歩かせているのも、結果的に僕のせい、なんでしょうし……」

 続ける声は小さくなる。刑事としての彼の勤務時間を考えてみると、確かにかなりの残業だろうか。

 すると宮橋が、くしゃりとして前髪をかき上げた。

「まぁいいさ、夜の歩きは嫌いじゃない。『どちらか分からなくなる事が少ない』からね」

 また不思議な意見が聞こえてきた。

 雪弥は、余計な質問はするな、と指示してきた隣の彼へと目を戻した。『夜の町並みを一望している』美しいその横顔からは、かなりご立腹なのが伝わってくる。