「お前、まさか」
「……その『まさか』です」

 雪弥は、視線をそらしたまま静かに携帯電話を取り出した。プライベートの携帯電話にぶらさがっている白いマスコット人形のストラップ――『白豆』が、相変わらず緊張感もない表情もあって揺れているさまが楽しそうにも見える。

 それをナンバー1が目に留めて、「ぶはっ」と素早く口を押さえる。

 そんな中、雪弥は恐る恐る携帯電のボタンを押した。その途端、画面ぎっしりに並んだ『蒼緋蔵蒼慶』の名に、くらりとして一気に血の気が引く。

「…………なんか、見ているだけで怖い」

 しつこく続いている着信履歴は、深夜二時でブツリと途絶えてしまっている。ただただ素直な感想を述べた雪弥を、「あ~……」とナンバー1がなんとも言えない表情で眺めた。

「でも僕は、ちゃんと言いたい事は本人に伝えたんです」

 言いながら、携帯電話をしまってソファに身を預けた。

「僕が副当主だなんて、そもそもありえない話でしょう。迷惑を掛けたくなくて、距離を置いて、一族としての権利もないのに名字があるだけで色々と言われて……」

 ずっと長く付き合ってきた上司に、ポツリと白状するようにただ一人の青年として告げる。でも、実を言うとこれまでの蒼緋蔵家の一族の人間の反応が、大人になった今考えてみると、全部が全部悪いとは思えなくもなっているのだ、と。