七月に入ったその日、N県警捜査一課。

 開けたオフィスには、一つだけ元倉庫のような個室があった。少し斜めにずれた『L事件特別捜査係』という表札がかけられた扉は、来訪者もあって開かれている。

「なんだ、あれ……?」

 同僚の刑事達が、思わずといった様子で手を止めて見守っていた。

 その部屋には、本やらファイルが多くあるのだが、そこに詰め込まれた小振りで上質な応接席のソファに、その部屋の主である刑事と、一人の青年が向かい合わせで腰掛けていた。

 捜査一課、ただ一人のL事件特別捜査係である宮橋雅兎。

 彼は宮橋財閥の二男の御曹司にして、三十六歳には到底見えない絶世の美貌を持った刑事だった。高価な薄いブルー色のスーツを着こなすスラリとした長身に、西洋人と勘違いされる端整な顔立ち。少し癖のある栗色の髪が、クッキリとした明るいブラウンの目に掛かっている。

 その向かいに腰掛けているブラック・スーツの青年は、『新人研修』と書かれた許可証を首から下げていた。