ナンバー1は、そこでようやく顔を上げた。『何者』ではなく『何(なん)なのか』と尋ねた部下を見つめ返す。

 確かに、その表現は正しいのかもしれない。
 けれど同時に、それが彼の胸を締めつけた。

 初めて出会った時の、空から降って来たようにさえ感じられた少年の、風に踊るやや明るい髪を思い出した。まだ高校生だった頃の姿を、今でも鮮明に覚えている。車窓の外を何気なく見ていたら、突然自転車が飛び込んで来たのだ。

 ナンバー1は、まるで遠くを見るようにして目を細めた。彼女は、見解を聞きたくてしばらく待っていたのだが、結局は視線を外されてしまっていた。

「すべては、蒼緋蔵家闇の中に、か……」

 彼は『診察』を受けている青年の、どうも実年齢の二十四歳には見えない、まだあどけなさの残る姿を見つめた。

             ※

 ナンバー1が口にしたのは、今『診察』を受けているエージェントの苗字であるとは知っていた。滅多に聞かない彼の個人的な呟きが気になって、彼女は問おうと唇を開きかけたが、ふと自分の立場を思って口を閉じた。