次の講義は午後から。とりあえず個室に戻り、宏弥はオフィス用の椅子に腰掛ける。

西園寺彩也乃。確かにいかにもな学生だ。
そもそもこの大学に『闇夜姫』に関する手がかりが見つかるのではと確信していたものの、当人がいるというところまでは考えついていなかった。
いや、そもそも現代にいる、という事に宏弥は否定的だった。

現代でも斎王に関する儀式はある。だがあくまで形式的なもの。
しかしこれだけ人が増え、人の思いもマイナスに集まることを考えれば、今も『闇夜姫』が存在してもおかしくはない。

もしも古代のままを踏襲しているとなれば支援しているのは天皇家、ようは皇室。
だが現在、皇室財産は国に帰属していると憲法にも明記されている。
とても『闇夜姫』という制度を維持できるような費用を彼らが勝手に作り出せるとは思えない。

そこで可能性が高いのが『闇夜姫』を崇めている『宵闇師(よいやみし)』の存在。
彼らは言ってみれば陰陽師や密教僧と同じ立場だった。
『闇夜姫』の強い力を分け与えて貰い、宵闇師は魔を祓う仕事を生業としていた。

だが力をつけてきて表舞台に出てきた陰陽師とは違い、宵闇師は絶対的な保障と引き換えにあくまで裏方を担った。
目立たずに仕事をしてくれる彼らを引き入れたい貴族などはいたはずで、天皇の他にパトロンが複数いた方が立場は安定する。

「そうか。
もしも今存在するのならこのような大学はあまりに都合が良い。
ここに通うのは良家の子女。元々井月学長は政財界にもパイプが太い。

都内中心部、広大な敷地。
早稲田は珍しく密教系の寺も複数あってあの家の真裏もそうだ。
ここはもしかして、そもそも宵闇師の集う場所の可能性も高いのでは無いか?」

自分の持つ知識というカードを並び直し、宏弥は部屋に一つだけある窓から外に視線を移動させる。

ここで自分の求めているものと対面できるかも知れない。
手を見れば軽く震えていることがわかり、宏弥は口角を上げた。

こんなにも興奮している自分がいる。なんと楽しいのだろうか。
震える手を見ながら、急激に何かが変わっていくことに恐ろしささえ感じていた。