「みなやはり心配するでしょう。
これを機にゆっくり休んで欲しいというのもあるかと」
「そうだね。
私が純潔なのかみんな心配なんだろうし」
宏弥の表情が強ばる。
だが世依は変わらない表情で変わらない声で言いのけた。
彼女は自分に起きた事を知っていて、そして周囲の心配をそういう風に取っている。
この子をこんな風にしたのは周囲の宵闇師達だ。
初めて彼らを憎い、そう強く宏弥は思ってしまっていた。
「世依さんを助けたのは僕です。
理事長にも話しましたが貴女は眠らされただけで何もされていません、大丈夫ですよ」
「そっか。
でもね、彼らはそんな言葉を、はいそうですかとは聞かないの。
医学的な確認を取らない限りは信用しない」
初めて世依の顔から感情のような物が消え去った。
彼女は既にそういう検査を受けたのだ。
宏弥も知識としては知っている。
女性がそういう被害に遭った場合はすぐさま処置が必要だ。
それを他の者達に勘ぐられ、彼女はその検査や処置を受け入れるしか無かったのだろう。
吐き気がする。
自分が説明しただけでは真実を裏付ける証拠として不十分だったのか。
いや、そもそも部外者の言葉など、それも闇夜姫を研究する男の言葉など信じろというのが無理なのかも知れない。
「世依さん」
「・・・・・・なんで、なんだろうね」
未だ表情の消えた世依に声をかければ、小さい声が聞こえた。
「なんで、私は闇夜姫なんだろう」
世依の声は、腹の底を押さえつけるような声だった。
膝に置かれた小さな手は小刻みに震えている。
「世依さん」
「私、私、頑張ってるのに、なんで、なんでこんなことに」
「世依さん!」
震える声で俯く世依に、宏弥は思わず立ち上がり世依を抱きしめた。
宏弥だって何故そうしたのかわからない。
本来はこんな状況で男が触れるのは一番不味いことだとわかっていたのに、その身体を抱きしめることしか頭になかった。
世依の身体がびくりと震える。
だが押しのけることも嫌だとも世依は言わない。
「ごめん。大丈夫」
未だ震える声で世依は自分に言い聞かせるように言った。
また自分の感情を消し、周囲のことを考えようとする世依に宏弥はたまらない気持ちになった。
「世依さん、良いんです。ここには僕と君しかいない。
言いたいことを言って良いんです。
世依さん、抑えなくていい」
世依を抱きしめていた宏弥の腕に世依の手が伸び、宏弥の腕をぎゅっと握る。
耐えるように握る世依に、宏弥は大丈夫、言って良いんですと繰り返せば、世依が宏弥の腕の中から泣きそうな表情で顔を上げた。