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あの後、宏弥は世依をリビングのソファーに寝かせ、すぐさま隆智も救出すると理事長に電話をかければ数名の人間が僅かの時間に家へ駆け付けた。
宏弥は世依達の運ばれる病院へは同行を許されず、駆け付けた理事長から感謝と今はこの家で待っていて欲しいと言われそれを受け入れた。
宏弥は静かな家で眠ることも出来ず、スマホを手に持ったままリビングのソファーで朝を迎えた。
有り難いことに今日は講義は無い。
眠れない間、宏弥は静かな怒りが自分の中に湧いているのを抑えているのに必死だった。
松井大輝というあの若者が自分に敵意を向けたのは気付いていた。
だがそれがこんな事に繋がるなど予想も出来ず、隆智達に伝えることもしなかった。
もしも伝えていれば。
そんな後悔をしても仕方が無いのに浮かんでは消える。
彼女を自由にさせたい。
そう思う宵闇師達が純粋な気持ちで起こした行動なのだろうか。
だとすればあまりに彼女の心を踏み弄る行為だ。
もしも隆智が家まで助けを求めに来なかったら。
たまたま自分が水を飲むために下に降りることがなかったら。
もしも、間に合っていなかったなら。
ぞくりと背中に悪寒が走り、宏弥はスマホを握る自分の手が震えていることを初めて自覚した。
そのスマホが震えだし、宏弥は理事長の名前が表示されている画面の通話ボタンをタップする。
「世依さん達の意識は」
宏弥が隆士郎に挨拶することも無く切り込めば、隆士郎は内心驚きと苦笑を隠し、
『大丈夫。先ほど世依も隆智も目を覚ましたよ』
「眠らされていたのですか」
『まだ全員の話を聞いていないが、どうやら睡眠薬の入った飲み物を飲まされたようだ。
世依の世話を担当した女が自分が皆に飲ませたのだと自白した』
そこで隆士郎はどういうものを世依達が飲まされたのかを宏弥に話した。
真田という女が、身体が温まるからと皆にハーブティーを振る舞った。
青い色の紅茶に扉番達含め戸惑ったそうだが、真田が姫が飲んで喜んでいたという言葉を聞き皆飲むことになったらしい。
睡眠薬というのは悪用を防止するために、水などに入れると青く染まるようになっている。
だから近年で悪用される場合は色のわからない飲み物に混ぜられることが増えた。
ハーブティーにしては珍しい色、寒いときに温かい物、そもそもここに裏切る者がいるなどとは疑いもしなかった。
『君が倒した松井、そして睡眠薬の混入をした真田は君に近づいた佐東の一派だった』
やはりあのナイフを持っていた女が真田だったことを宏弥は認識した。
「彼らはしきりに世依さんを自由にしたいと言っていましたが」
宏弥の耳に小さなため息が聞こえる。
『残念だが姫に盲信してしまい、勝手な事を推測する者達はいる。
佐東の場合は宵闇師を追放され、姫への思いが歪んだ結果か、いやそれだけでは無いだろう。
我々の人数は多くいるわけでは無いが、それでもこの有様だ。情けないが』
「・・・・・・世依さんに会えますか」
宏弥は一呼吸置いて隆士郎に尋ねた。
隆士郎はその声に、何故会いたいのかと聞きたくなるのを飲み込んだ。
『もちろんだ』