「学校内全てで彼女を見ているのは怪しまれるので難しいですが、なるべく気をつけて見ておきます。
何か気になることがあればお知らせしますから」
「助かる」
宏弥は随分と自分たちを助けようとしてくれているのは隆智もわかっていた。
それは同居して世依が熱を出したときに実感した。
その後も自分たちにはあくまで同居人として心配しているのがわかる。
そして先日世依から知らされたこと。
まさか世依本人からいくら質問されたとはいえ明かすとは思っていなかった。
それともずっと一緒に住んでいて情が湧いたのか。
どちらにしろ彩也乃からの連絡にもあったように、バレるのは時間の問題だとは思っていたが。
何せ先ほどからの会話に宏弥は世依の名前を出さないものの、世依を前提として話しているのはわかっている。
「そういえば世依から聞いたんだって?」
隆智は音を立て焼きそばを食べている。
顔は下を向いたままだ。
「はい。僕から聞いたのですがまさか答えてもらえるとは。
それに隆智くんは良かったんですか?
西園寺さんを影武者にしてまで僕に会わせたのに」
はは、と隆智が笑う。
彩也乃からは会わせる前から多分騙せないと報告を受けてた。
だけどすぐに世依に会わせるわけにもいかなかった。
「宏弥さんが何を考えているかわからなかったからね。
それに世依が宏弥さんを信用したんだ、俺が何か言うことでも無いよ」
マグカップに注いだ緑茶が無くなったので、隆智が宏弥におかわりいる?と聞くと宏弥がお願いしますと答える。
その雰囲気はごくいつも通りで、宏弥は隆智が守護者では無くこの家に居る隆智として接していることがありがたく思えた。
「一つ、伺っても良いですか」
「何?」
「答えたくない内容でしたらそれで構いませんので」
隆智が急須から宏弥のマグカップにお茶を注ぎ、自分にも入れ終わると席に戻る。
「以前隆智くんは世依さんを傷つけたと言いましたよね。
それがどうしても腑に落ちないんです。
隆智くんが世依さんをそういう風にするとは思えない。
むしろ世依さんを助けようとした結果そうなったのではと」
宏弥の顔は表情に乏しい。
だがその目が真剣なのは隆智にもわかる。
ほとんど答えにたどり着いてるじゃ無いか。
隆智は宏弥の推理に内心笑いそうになる。
「あれは俺が小学五年の時かな。
世依は幼稚園にも入らずに家で養育されていた。
子供の頃は世依が大人達に不思議な教育をされていても特に疑問を抱いていなかった。
だがそんな時に世依の小学校に入る話について大人達が話しているのを聞いたんだ。
姫を守るために学校に通わすのは危険だ、どこか安全な場所に移そうと」
隆智はお茶を飲んで話しを続ける。
「小学生になる前から俺は色々と父親から教育を受けていた。
いわゆる姫を守るための教育だ。
まだガキだったからそれまで自分がしていることもよくわかってなかった。
世依は姫、俺は騎士。
父親からそう教わって、可愛い世依を守れるなら頑張ろうと思った。
だがどこか知らない場所に移されたら、いつも笑顔なのに隠れて一人で泣いている世依を慰めることも出来ない。
だから俺は世依を連れて朝早く家を出たんだ、それが何を引き起こすかなんて知らずに」
ずっと隆智の声は沈んでいる。
表情も陰り、話させているのを宏弥は止めようとしたが、隆智はそれを断った。