「では我らが姫にお越し頂こう」

宏弥が隆士郎達の入ってきたドアに身体を向けると、隆智が入ってきた。

そこに現れたのは、黒髪の見知った学生、西園寺彩也乃だった。
黒のワンピース姿で何のアクセサリーも身につけていない。
長袖長い丈、胸元も詰まったデザインのワンピースだが、そこから覗く首元や手の白さが黒いワンピースだからこそ映えていた。

彩也乃の後ろに鹿島が付き従い、二人はテーブルの真ん中の席に向かう。
宏弥は椅子から立ち上がって彩也乃を見ていた。

彩也乃が宏弥の正面に立つと彩也乃が軽く頭を下げ、それに呼応するように宏弥も頭を下げる。
鹿島が椅子を下げて彩也乃が腰を下ろすと、鹿島はドア近くに戻って立ち、隆智は席に戻ってきて宏弥も椅子に座った。

「紹介しよう、彼女は西園寺彩也乃。
君の求める『闇夜姫』だ」

説明する隆士郎を宏弥は見た後にその横に座る彩也乃へ向き合う。

彩也乃はただ真っ直ぐに宏弥を見ている。
その顔には笑顔も何も無く、美しいが故に作り物の人形が座っているように何も読み取れない。

「ここは初めましてとご挨拶させて頂きます。
僕は朝日奈宏弥と申します。
貴女のことはどのようにお呼びすればよろしいでしょうか」

宏弥の質問に初めて彩也乃の口が少し緩んで弧を描く。

「私は貴方との関係では一学生でしかありません。
ですのでどうぞお好きなようにお呼びください」

「では西園寺さんとお呼びします」

「はい、朝日奈先生」

彩也乃の美しい目が柔らかく変化した。
少し悪戯な雰囲気を纏っている彩也乃に宏弥は目をそらさないが、不躾な視線をすることはない。
彩也乃はてっきり研究物を初めて見た興奮を少しくらいは感じさせるのではと思っていたので肩透かしにあった気分ではあった。

『やはり私を影武者だと思っているからそういう態度なのかしら。
どうしてもわからないけれど、むしろこちらが興味をそそられるのよね、朝日奈先生って』

そんな事をおくびにも出さず、彩也乃は闇夜姫としての影を全うするために優雅に座っていた。

そんな二人のやりとりと見ていた隆士郎が、

「君に大切な闇夜姫まで会わせた理由を話したい。

宵闇師として簡単でそして譲れない部分、我々の存在を外に知らしめることは止めて欲しい。
それが理由だ」

「宏弥さん、貴方は僅かな知識しか無いと言いながら、本質部分や必要な情報はしっかり握っている。
ならわかるはずだ。
我々は表に出ることを良しとしない。
こんな科学の発達した世界で今もこういうことが政財界では当然とされていることが知られれば彼らにも影響する。

そして姫はマスコミから絶好の玩具にされかねない。
下手をすれば我々は新興宗教団体扱い、そして姫は矢面に立たされる。
そんな事は引き起こしたくないんだ」

隆智は落ち着いて話そうと思いながらも、最後は熱が籠もってしまう。
わかってくれるのか、受け入れてもらえないのか。
この場で決まるかも知れないとなれば焦ってしまう。

「今も宵闇師や闇夜姫は魔を祓う仕事を担っているのですか?」

「もちろんだ。
これだけ人口が増えただけ人の負の感情は自然界にすら影響を及ぼす。
昔のように宵闇師は日本全国にいても人数は少ない。
君も知っての通り、姫の力で我々は大きな仕事を行える。
もしも我々の仕事が出来なくなれば、もっと悲惨な事件が増え、災害なども起きる頻度は増えるだろう」

宏弥の質問に隆士郎が答えると、そうですか、と宏弥は頷く。

「西園寺さん」

「なんでしょうか」

急に名前を呼ばれて警戒したのは隆智だった。
彩也乃は落ち着いたまま。

「貴女は自分の事を世間に知って欲しいとは思わないのですか?」

宏弥の平坦な声に、彩也乃は淡く笑みを浮かべた。