「さて、本題だ」

隆士郎の言葉に、隆智は用意していたタブレットを出し画面を出すと、それを宏弥の前に置いた。

宏弥がそれを手に取ると、秋に佐東という男から声をかけられた時の写真が自動的に何枚も映し出された。
それを見て顔を上げる。

「さすがにここで君が何を話したのかは掴んでいないが、この男から何らかの誘いがあって君は断っていると私達は思っている。
このときの話を教えてはくれないだろうか」

「その前に彼は何なのですか?」

「この男は君に何と名乗ったのかな」

「宵闇師だった、と名乗っていました」

「なるほど、それは正しい。名前はなんと?」

「佐東と」

「うん。思ったより直球で君に接触したようだ」

隆士郎は何事も無いような顔で笑い、一席空いた向こうに座る隆智の顔は一切厳しいまま。

宏弥はそんな二人を軽く見た後、

「僕からもよろしいですか」

「あぁ」

隆士郎は軽く返答する。

「宵闇師だったと名乗る佐東が何を交渉してきたのかお聞きになりたいと思うので先に。

彼は宵闇師と闇夜姫の事を僕によって世間に公表して欲しいようでした。
だが彼は宵闇師だったと過去形で言い、それも僕が一人になったときに接触してきた。

僕の得た知識はまだ僅かなものですが、宵闇師はそもそも表に出ることをよしとしていなかった。
崇拝する闇夜姫が斎王の裏の存在として表に出られなかったのですから、自分たちが目立つなんて事は考えないでしょう。

時代が変わったから考え方も変わった、それは当然考えましたが僕としてはしっくりきませんでした」

「佐東は見る目があったが人選を間違えたね」

宏弥の報告に隆士郎は楽しげに言い、隆智は話しを聞いて何とも言えない気持ちになっていた。

彼はわかっている、宵闇師がどういうものであるのか、そして闇夜姫をどう思うのか。

佐東は宏弥が目立ちたいただの学者と思ったのだろう、だからこそ利用できると考えた。
だが隆士郎の言っていた、宏弥は闇夜姫に一途、という言葉を思い出す。
その一途というのは研究者としてなのか、ただの男としてなのか。
隆智は自分の膝に置いた手を、無意識に強く握りしめていた。

隆士郎は横目で息子の耐えるような表情を認識した後、宏弥を見据える。

「先に情報をありがとう。
おそらく今日君をここに呼んだ理由もわかっているのだろうと思うが、一番はどうやら私達宵闇師を辞めた者、そして現役の者達が何かを企んでいるらしい。
君から佐東が接触してきた理由を聞いて、恥ずかしながら何を考えているかの一端を知ったほどだ。

私達宵闇師は仕事として古代より魔を祓う仕事を担っている。
そしてそんな我々を守る存在でも在る闇夜姫を崇拝すると供に守る存在でも在る。
だが、その想いは強いが故に人により歪んでしまう場合があるんだ。

佐東は私的に宵闇師を利用し報酬を個人で受け取るなどの行為により追放されたが、闇夜姫には盲信的なところがあった。
宵闇師ではなくなり、それでも姫を想う気持ちが歪んでもっと姫を世の中に知らしめたいという感情になってしまってもおかしくはないだろう」

「今でも彼女は皆さんにとってそのような存在なのですね」

隆士郎の説明に宏弥はただ確認するかのようだった。

自分の知識と答え合わせが始まっているのだ。
もっと自分では興奮するのではと思っていたが、思ったより冷静な自分を宏弥はその後現れるであろう人物のために取ってあるような気がした。

隆士郎は隆智に視線を向け、隆智は頷くと席を立つ。
そして入ってきたドアから外に出て行った。