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流石に外のテラスは寒くて誰も食事をしていない。
仲の良い友人達と食堂でランチを終え、友人が教務課に提出物があるというので世依は付き添っていた。
「でさ、彼氏が社会人だと色々会話にずれがね」
毎回彼氏と喧嘩をしては仲直りをしている友人がまた愚痴をこぼしている。
それに世依も友人も毎度のことだと適当にあしらうので、本人は不満をその点でも話し出した。
「まだ人気だねぇあの人」
教務課の窓口に向かった彼氏のいる友人を世依は見送り、もう一人と離れたところで眺めていればその友人が口にした。
「窓口の人だっけ」
「そう、あのわんこ系の童顔男子」
窓口には学生達が笑顔で彼に話しかけ、松井は困ったように笑いながら頭を掻いている。
「世依は興味なさそうだね」
友人が笑うと、
「今の一番の興味は今晩のメニューだね」
わざと真面目な顔で答えれば、世依らしいと友人は笑い、提出してきた友人も戻ってきて三人は背を向ける。
松井が真っ直ぐにその背中を見ている事を、そこにいる学生は誰も気がつかなかった。
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十二月まであと僅か。
そんな時に宏弥のスマホに電話がかかってきた。
相手は学長。久しぶりに声を聞く。
『朝日奈君、折り入って話がしたいのだが』
それだけで宏弥は呼び出される理由に見当が付いていた。むしろ遅いくらいだろう。
『どちらにお伺いすれば宜しいでしょうか』
さぁ、本格的に動き出した。
それはどの者達にとっても同じ感覚だった。
約束の日は週末の土曜日夜。
世依は珍しくその日から明日まで井月家に戻っている。
育ての母から久しぶりに泊まりに来て欲しいと泣きつかれて折れた。
朝からいまいち乗り気じゃない世依と、それをなだめる隆智。
未だに隆智がいない状態で家に戻るのは緊張してしまう。
そんな二人のやりとりを宏弥は素知らぬ顔でコーヒーを飲む。
呼び出された日に世依は実家に返される。
それは隆智、そして自分がいないので世依を一人にしておくのが心配なのだろう。
そう考えると、関係者は隆智で決定、世依は除外となる。
なのに宏弥は心の奥に引っかかる。
見るべき物を見ようとしていない、それに気付いているのに気づきたくない。
そして今、呼ばれた時間数分前に学長室の前に宏弥は立っていた。
コートを腕に掛け、珍しくスーツ姿。
そして眼鏡を外してスーツの胸ポケットに入れ、前髪を掻き上げた。
ドアを数回ノックすると、ドアが奥に開く。
そこで出迎えたのは宏弥が会ったことの無い、笑顔の男だった。