「あぁトイレですね。待ってますよ」
「ちがーう!」
デリカシーって無いの?!と怒られ謝罪しながら宏弥はでは何が正解だったのかと視線を世依の足下に向けたときに、さっとその足が下がって違和感に気付いた。
もしや。
「足、見せてください」
世依は宏弥の言葉に頬が引きつりかけたのを誤魔化すように、
「スケベだ。女子大生の足が見たいなんて」
それで怯んでくれるかと思いきや、言ってる側から砂の地面を気にせず跪いた宏弥が世依の足をじっと見ると、白い鼻緒が赤黒く一部変色していることに気が付いた。
ここでは薄暗くよく見えないが、これは足の指がかなりすり切れている可能性がある。
これでは歩くには痛いだろう。
顔を上げると、申し訳なさそうな表情が目に入りため息が出そうなのを押さえ込んだ。
何故彼女はこういう時、自分に言わないのだろう。
我が侭を言っているようで、最初から彼女は甘えてこないし肝心な部分は隠してしまう。
それだけまだ気を許されていないのか、元々そういう性格なのか。
いや隆智くんにはしているじゃないかと思うと、苛立つ自分に気付かないふりをした。
だが何かを彼女にしないと気持ちが収まらない。
「足が痛いのを我慢してたんですね」
「今気付いたんだよ」
「これじゃ歩けないでしょう」
「歩けるよ、ゆっくり歩けば大丈夫」
ずっと跪いて下を向きながら話していた宏弥が立ち上がり、世依は引きつった笑みで宏弥を見上げれば、その目は鋭くて世依の目が泳ぐ。
「さて。お腹が減りましたし早く帰りたいですよね」
ゆっくり歩けば大丈夫と言ったのに早く帰りたいという言葉を言われ、世依は宏弥を怒らせたのではと、不安げに見つめる。
「ということでどちらか選んでください。
僕に肩車されるか、抱っこで帰るか」
えっ?!と世依は目を見開く。
訳のわからない二択を迫られ、混乱しながらもいや、あの、と声を出す。
そこに宏弥は追い打ちをかけることにした。
「ではあと三秒で決めて下さい。決めなければ肩に担ぎます。
ではさん」
「え、ちょ」
「にぃ」
「抱っこでー!」
焦ったように言いきれば、宏弥は軽く笑う。
「ではお姫様、お運びしましょう」
え、え、とうろたえる世依を引き寄せてあっという間に抱き上げた。
「重いから!」
「重くないですよ」
せめて言葉で抵抗しようとして、たまたま世依の視界に入ったのは女の子達の羨望のまなざし。
イケメンに抱っこされてる!羨ましい!などと声だけ聞こえ世依は必死に、
「下ろして!みんな見てる!」
「顔を見られて恥ずかしいなら顔を隠しておけば良いですよ。
それにバランスが取りにくいので首に腕を回して下さい。階段では危ないので」
どうしよう、首に手を回せば余計に密着してしまう。
そしてそろそろ階段。
周囲の視線が突き刺さるのがわかりながら世依は覚悟を決めると、両手を宏弥の首に回し胸元に顔を埋めた。
宏弥は耳まで赤くなっている世依に何故か満足した気持ちになりながら、人の混んでいる石段を慎重に、そしてゆっくりと降りていった。