突然横からの衝撃を受け世依はがくんと倒れそうになったが、建物にぶつかり倒れずに済んだ。
しかしその時に足に力をいれて思わず顔をしかめる。
元々おろしたてだった下駄の鼻緒ですり切れた足の指のつけ根に痛みが走ってしまった。

「おっとごめんごめん」

世依がぶつかられた方を向けば、酒の缶を持った大学生か社会人らしき男がニヤニヤとしていた。
横にも同じ歳くらいの男が二人いる。
世依は男達をキッと睨んで後ろに下がった。

「君、一人?もしかして蓮華学院女子の子?」

あまりにお決まりの言葉に世依は逃げようとゆっくり男達と距離を開ける。
だが男が手にしていた物に世依は驚く。
それはさっきぶつかられたときに落としてしまった巾着だった。

「これ君の?」

「返してください」

「せっかく拾ったんだしさ、お礼くらい欲しいよね」

「そっちがぶつかったから落としたんです。返してください」

お嬢様かと思えば気が強いねぇ、と男達が笑う。
世依自身言い返しているが本当は怖くてたまらない。
だけれどこんな理不尽なことに従う事の方が許せなかった。
睨んでいる世依を見ていた男がニヤつきながら、

「はいはい返すよ。どーぞ」

差し出された巾着を取ろうとしたら、上に持ち上げられ世依の手は空を切る。
ほらほらと世依の手の届かない高さで巾着を男が揺らし始めた。
思わず手を伸ばそうとしたら浴衣の袖がするりと落ちて、露わになった肌を隠すため慌てて手を下げる。
ヒューという冷やかしの言葉に世依の顔が恥ずかしさで赤くなり俯いた。

「いてぇ!!」

大きな声にびくっと顔を上げると、巾着を持っている男の前腕を宏弥が右手だけで掴んでいた。
グッと驚くほどの強さで握られ、痛いと叫んでも容赦なく強くなり思わず握っていた巾着を放すと、左手でそれをキャッチした。

「一人にしてすみません。怖かったでしょう」

宏弥は男の手を掴んだまま、取り返した巾着を世依に差し出す。
世依はそれを受け取り抱きしめると、言葉も出せずにただ何度も頷いた。

そんな世依を見てまた男達の方に宏弥は向こうとした瞬間、宏弥が腕を掴んでいた男が声を上げて先ほどまで巾着を持っていた手を拳にし、宏弥の顔めがけ打った。

だがそれをわかっていたように宏弥が左手でその拳を止めると覆うように握り、また強く力をこめた。
ギリギリと強くなるその手の力で男の爪が自分の手に食い込み、いてぇと叫ぶのを無視して宏弥は男の両手を掴んだまま長い足で男の足首を勢いよく蹴ると、男はあっけなく転んでしまった。

無様に転んだまま何が起きたか理解していない男に影が出来る。
見上げれば整った顔の男が高い位置から自分を見下ろしていた。

整っている顔に表情は無い。
宏弥の目は冷徹に地べたに座り込む男を容赦なく射る。
その目に底知れない恐怖を感じ、男の顔は凍り付いたまま青ざめていた。

未だ座り込んで動けない男に駆け寄った仲間が、おいお前!と宏弥に声を荒らげるが宏弥は世依を背中に隠すようにしたまま、

「今はそれだけで済ませましたがもっと痛みを味わいたい方はどうぞ遠慮無く。
満足頂けるまでお相手しますよ」

ゆっくり拳を握ったまま宏弥が一歩踏み出すと、男達は慌てながらその場から逃げてしまった。