そんな世依に宏弥は穏やかに、
「もちろん世依さんだからですよ。
正直祭りなどは仕事で調べるためには仕方なく行きますが、どちらかと言えば人の多い場所は苦手です。
ですが世依さんとなら楽しそうなので。
この周辺はコンビニとかしか覚えていないので、出来れば神社の案内をしてもらえれば僕としても助かるんですがどうでしょうか」
横にいる宏弥に思い切り隆智は首を向け、
「いやいやそんなに気を遣わなくて良いよ。
人混み嫌いなんでしょ」
「人混みは嫌いですが、世依さんが一緒なので。
隆智くんも困ってるようですし僕が引率するなら良いですよね?」
引率、と隆智と世依がシンクロして呟いた。
その意味は全く違うのだが。
隆智としては出来ればこの事態を避けたい。
自分が守るべき世依をまだ来て数ヶ月の男に預けるのは心配だ。
そもそも世依が男達に絡まれたときに、図体だけでかいこの男に撃退なんて出来るのだろうか。
そわそわと隆智の許可を待っている世依をちらりとみて、わざとらしく隆智は咳払いをする。
「俺としては世依に何か起きないか心配なんだ。
この辺は大学多いしナンパ目的の男達も集まる。
特に蓮華学院女子狙いの奴らは他の地域から来るくらいなんだよ。
宏弥さん撃退できんの?」
神妙な顔で聞けば、宏弥は、
「撃退?まさか。
そういう場合は逃げるが勝ちです。
すぐさま世依さんを担いで逃げますよ。
それに逃げ足には割と自信があるので」
表情も声も特に変わらないが、自信ありげに言い切られて隆智が口をあんぐりと開けた。
駄目だ、こんなの世依が、と思ってるがテーブル越しにひしひしと許可を欲する世依のキラキラした目が視界に入ってしまった。
隆智は盛大なため息をついて、
「わかった」
「やったー!」
両手を挙げた世依に、ちょっと待てと釘を刺す。
「宏弥さん、こいつ勝手にいなくなるから本当に気をつけて。
あと世依、おかしいと思ったらすぐ家に戻れ」
「わかってる」
この会話だけは宏弥にとって違和感があった。
それは世依の立場を知ってる者達で悪意を持っている者がいないとも限らないというところと、人の集まる場所は魔も集まりやすい。
だからこそ隆智が家族としてそして守護者としてそういう場所には付き添う。
同性の友人達と出かけるときも、誰か守護者が離れて周囲を確認している。
ようは全く一人で世依は外に出たことが無かった。
『とりあえず誰か守護者を呼んでおこう』
既に椅子から宏弥の目の前で絶対ね、約束破らないでね、と詰め寄る世依を見て、隆智が、あ!と大きな声を出した。
「いやいや不味い!教員と学生二人で祭りとか大学のコンプラに引っかかる!」
「隆ちゃん、宏弥さんとずっと一緒に住んでるのに何を今更。
いざとなれば実は親戚ですってことにすれば?」
「あのなぁ」
「ようは僕だとバレなければ良いんですよね」
「宏弥さん、だから」
「その辺は気をつけますよ。そろそろ風呂に入っても良いですか?」
考えてみれば宏弥は帰ってきたままここに拘束されていて、隆智と世依はタイミングを失ったように、うん、と返すしか無かった。