世依はきちんと理解していた。
自分が熱を出したときに宏弥は酷く心配し、自分は世依の大切な部分を見ていないのだと痛感し反省したと隆智から聞いた。
それからか、自分は察するというのが大切な物には出来ないのだと言って、彼なりに歩み寄ろうとするのを世依はただ嬉しく思っていた。
それがこういう形で宏弥に話させてしまったことに世依は罪悪感に駆られる。
「ごめん。私があんな風に言うと話さないといけなくなるよね」
俯いて思い切り落ち込んでいる世依に、宏弥はその頭を優しく撫でる。
世依が顔を上げ撫でられたまま申し訳なさそうに宏弥を目線を上げた。
どうしてか彼女と接していると自分をさらけ出しても良いような気になってくる。
そして自然と手が伸びて、柔らかなその髪を撫でてしまう。
大学からは学生との接触は禁止、それこそ身体に触れるなんてことは絶対に許されないのに、同居しているのだから、妹のように思えているのだから良いのだと自分を納得させた。
「世依さんは何も悪くないですよ。
むしろこんな面白くない話しを聞かされて嫌だったでしょう」
ぶんぶんと首を横に振った世依は、
「嫌なんかじゃ無い。
こういう風に話してくれたこと、私は凄く嬉しい。
真面目に宏弥さんがこの家で暮らす私達にとても歩み寄ってくれてることだってとても嬉しい。
でもね、だからと言って自分にとって嫌なことを打ち明ける必要は無いんだよ。
無理はしなくて良いの。
だけど宏弥さんが何か抱えているんなら力になりたい。
人に話すだけで楽になることだってあるよ」
曇りの無い純粋な言葉というのは人の心に熱いほどに伝わる。
今まで交際した相手はそれなりにいても、そういうことを聞かれると宏弥は誤魔化して話すことしなかった。
話そうと思えたのはきっと彼女が聞いたから。
そしてこうやって彼女が言ってくれることが嬉しいと自分が感じていることが、宏弥には正直信じられない。
『自分にもまだこんな人らしい感情を持てたんだな』
自然と口元が弧を描く。
何かまた不味いことでも話しただろうかと不安そうに見つめる世依に、また宏弥はその頭を撫でた。
「世依さんは凄いですね」
「何が?」
「僕を人間にしてくれる力があることです」
「いや、宏弥さん人間でしょ。
それともサイボーグか人造人間なの?」
眉を寄せて聞いた世依に、思わず宏弥は噴き出した。
それに世依が驚いた。
楽しげに軽い声を立てて笑う宏弥に世依は釘付けになる。
『この人はこんな風に楽しそうに笑えるんだ』
それはとても世依の心に何かを与えた。
少しずつ彼が心を開いていってくれているように思えて、心の中が嬉しさに溢れてくる。
もっと笑えば良いのに。
いや、もっと笑ってもらえる家にすれば良いんだ、私が。