「親父から聞いてるだろうけど世依は俺の両親が引き取った。
苗字が違う事でわかるとおり井月家の養子にはなってない。
親父からすると井月家に世依を巻き込まないためって事だが、世依は小さい頃ころから賢かったし周りの空気を読んだ。
両親は実の娘のように可愛がっているけど、世依は実の娘じゃ無いとどこかで線を引いてる。

あいつは自分が苦しくても周囲を苦しませるくらいなら無理にでも笑うことの出来るヤツなんだ。
だから俺が先にここで暮らして、高校卒業したら世依をここへ引き取るような形にした。
少なくとも両親に気を遣うよりは俺との方が気心が知れているからね。
それを両親もわかってるから許してるんだよ」

「そうだったのですね」

隆智から初めて二人だけで住んでいる理由を聞いた。
大切な彼女を守るために、彼は力をつけ受け入れる場所も用意しておいたのだろう。
半端な愛情で出来ることではない。
隆智が世依を想う気持ちは、恋という枠をきっと越えているのかも知れない。

「凄いですね。お二人にはとても深い絆を感じます。
世依さんも隆智くんを心から信頼し、そして安心して側にいられるのが伝わりますから」

隆智がその言葉に照れるか否定するかと思いきや、サンドイッチの入っていたビニール袋をぐしゃりと手で潰す。

「そりゃそうだ。俺は世依に深い傷を負わせたから」

自嘲気味に暗い目をして笑う隆智を宏弥は初めて見た。
傷を負わせたのに彼女は信頼している。
傷はおそらく心にだろう。それなら、何故。

「宏弥さんってだいぶ俺たちの前では素直というか表情が出てきたよね。
何故って顔してるがよくわかる」

指摘に宏弥は自分がここで気を抜いているのだろうと自覚する。
本来の目的である『闇夜姫』を知るということにはあまり良くない手かも知れないが、彼ら、隆智と世依にはせめて出来るだけ素直でありたいと思う。

「えぇ、何故なのだろうと疑問を抱いています」

そんな宏弥に隆智は穏やかな顔で笑った。

「でも残念。これは二人だけの秘密だからナイショ」

「なら仕方がありません。詮索は野暮ですね」

そうしてよ、と軽く笑って椅子から隆智が立ち上がる。
宏弥も立ち上がって、

「世依さんの様子を見に行くんですよね。ここは僕が片付けます。
お昼はおにぎりとお惣菜を買ってきましたので。
夜は世依さんの体調次第で決めましょう。うどんか何かなら出前も良いでしょうし」

隆智は、じゃそれでと言って、また飲み物などを持って二階に向かった。

彼女の様子はどうだろうか。
まだ苦しくて食事もろくに取れていないのではと心配になる。

様子を見に来たい。
見に行きたいが、自分が行って彼女が元気に振る舞おうと無理をしては意味が無い。
まだ彼女が弱っているときに近づいていいエリアには、まだ自分は踏み込んではいけないのだろうと理解する。

早く彼女の元気な顔が見たい。

「こういう依存はやはり怖いな」

慣れない感情に宏弥は苦笑をこぼし、テーブルの上を片付け始めた。