宏弥が家に戻るとダイニングキッチンに隆智はいない。
おそらく世依の部屋にいるのだろうと、とりあえずアイスを冷やさなければと冷凍庫を開ければ宏弥の買ったアイスのストロベリー味が六個引き出しに整列している。
流石は隆智くんだと宏弥は心の中で白旗を揚げアイスを詰め込んだ。
「おかえり」
後ろから隆智が冷凍庫の引き出しを開けている宏弥に声をかけた。
そしてその手に持っているアイスを見てから宏弥を見れば、何とも情け無さそうな顔をしていた。
「世依さんがこのブランドのアイスを食べていたのは覚えていたんですがどれかはわからなくて全て買ってきてしまいました」
隆智が覗くと二つずつ入っていて何故か笑ってしまった。
「なんで二つずつ?」
「僕は興味が無かったので隆智くんと世依さんでと」
「わかってないな、世依なら三人皆で同じのを食べたいって言うよ」
「そう、ですね」
やはり大切な部分を見ていない。
宏弥は自分でも自分の不甲斐なさを痛感していた。
妙に肩を落としている宏弥を不思議に思いつつ隆智が、
「朝飯買ってきてくれたんだろ?なんか食おう」
わかりました、と宏弥も答え、とりあえず買ってきた物をテーブルに出し始めた。
買ってきたサンドイッチと、宏弥が煎れたコーヒーをテーブルに向かい合って二人で食べる。
しばらくして隆智が声をかけた。
「何でそんなに落ち込んでんの」
眼鏡を既に外している宏弥が指摘されたことに不思議そうな顔をした後苦笑いを浮かべた。
「もう二ヶ月以上こちらでご厄介になっているのに、色々気付いていないなと。
昨夜も世依さんは元気そうに思えましたし、病気なら何か好きな食べ物をと思い出そうとしてもアイスのカップをぼんやり思い出せたくらいで。
隆智くんはとてもしっかりしていて、ここに住んでいる以上見習わなければとしみじみ思っていました」
この男がこんなにも気持ちを話すのを聞くのは初めてでは無いだろうか。
それも本気で反省しているのを感じ、隆智も宏弥に少し歩み寄ることにした。
「なぁ、ここに親と離れて俺と世依だけが住んでいるっての、違和感あるだろ?」
「はい。疑問には思っていました」
だよな、と隆智が言うと、コーヒーを飲んでぼんやりとしたその目は視点が定まっていないように見える。