「あの、失礼ですが、貴方はどうしてピアノを……?」
古賀が、しどろもどろに口の中で言った。いつ本題を語ろうか、どのように話せばいいのか分からないでいるように、自身の手元を見つめる眼差しには落ち着きがない。
一度だけ、萬狩は彼を横目に見たが、視線を前へと戻して「数か月前に引っ越した家に――」と切り出した。
「立派なピアノが付いていた。調律もされていたものだから、一曲ぐらい弾いてみようと思った。……それだけだ」
「そう、なんですか……ご自宅にピアアノが…………」
そこで、会話は途切れた。萬狩は他に話題も思いつかず、黙ったまま海を眺めているしかなかった。
海は空の色である、というキャッチフレーズはよく耳にしていたが、こんなにも深く美しい青を、萬狩は沖縄に来るまで知らなかった。
浅瀬から奥へと向かって、青が作り出すコントラストは水面のヴェールにも見える。それを眺めていると、暑苦しい日差しも水面をより輝かせる素敵なものに思えてくるのが、萬狩には不思議だった。
潮風は生温かかったが、心地良くも感じた。きっと、自分が汗をかいているせいだろう。
「君は、いくつだ」
気付けば、彼は吐息代わりのようにそう訊いていた。
古賀は、何度か萬狩の横顔を盗み見た後で「……二十四です」と答えた。途中、少しだけ言葉が舌足らずになっていた。緊張しているのか、それとも会話に慣れていないのか、萬狩は他人事のように考えてしまう。
「実は、その……僕は漫画を書いておりまして」
「ほぉ。漫画家というやつか?」
「まだまだ有名ではないのですけれど、えぇと、いちおう二つ連載を持っていまして、定期的に出している単行本もあって……」
どちらかと言えば、同人の方の仕事がメインというか……、と彼は口ごもった。
古賀が、しどろもどろに口の中で言った。いつ本題を語ろうか、どのように話せばいいのか分からないでいるように、自身の手元を見つめる眼差しには落ち着きがない。
一度だけ、萬狩は彼を横目に見たが、視線を前へと戻して「数か月前に引っ越した家に――」と切り出した。
「立派なピアノが付いていた。調律もされていたものだから、一曲ぐらい弾いてみようと思った。……それだけだ」
「そう、なんですか……ご自宅にピアアノが…………」
そこで、会話は途切れた。萬狩は他に話題も思いつかず、黙ったまま海を眺めているしかなかった。
海は空の色である、というキャッチフレーズはよく耳にしていたが、こんなにも深く美しい青を、萬狩は沖縄に来るまで知らなかった。
浅瀬から奥へと向かって、青が作り出すコントラストは水面のヴェールにも見える。それを眺めていると、暑苦しい日差しも水面をより輝かせる素敵なものに思えてくるのが、萬狩には不思議だった。
潮風は生温かかったが、心地良くも感じた。きっと、自分が汗をかいているせいだろう。
「君は、いくつだ」
気付けば、彼は吐息代わりのようにそう訊いていた。
古賀は、何度か萬狩の横顔を盗み見た後で「……二十四です」と答えた。途中、少しだけ言葉が舌足らずになっていた。緊張しているのか、それとも会話に慣れていないのか、萬狩は他人事のように考えてしまう。
「実は、その……僕は漫画を書いておりまして」
「ほぉ。漫画家というやつか?」
「まだまだ有名ではないのですけれど、えぇと、いちおう二つ連載を持っていまして、定期的に出している単行本もあって……」
どちらかと言えば、同人の方の仕事がメインというか……、と彼は口ごもった。